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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3237号 判決 2000年7月28日

控訴人(附帯被控訴人)

フレッシュサウンドレコードことA

控訴人

スーパー・ストップ株式会社

右代表者代表取締役

右両名訴訟代理人弁護士

山下良策

被控訴人(平成一二年(ネ)第一五二号附帯控訴人)

ヴィーナスレコード株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

梅沢良雄

被控訴人(平成一二年(ネ)第二二九号附帯控訴人)

株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

城戸勉

主文

一  控訴人らの本件各控訴を棄却する。

二  被控訴人らの各附帯控訴に基づき、原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。

控訴人Aの被控訴人らに対する右部分に係る各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人A(控訴の趣旨)

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人らは、原判決別紙レコード目録記載の各レコードを製造し、販売し、又は頒布してはならない。

3  被控訴人らは、

(一) 原判決別紙被告第一ジャケット目録の図柄を付したジャケットを用いて原判決別紙レコード目録記載①のレコードを、

(二) 原判決別紙被告第二ジャケット目録の図柄を付したジャケットを用いて原判決別紙レコード目録記載②のレコードを、

(三) 原判決別紙被告第三ジャケット目録の図柄を付したジャケットを用いて原判決別紙レコード目録記載③のレコードを、

(四) 原判決別紙被告第四ジャケット目録の図柄を付したジャケットを用いて原判決別紙レコード目録記載④のレコードを、

それぞれ製造し、販売し、又は頒布してはならない。

4  被控訴人らは、控訴人Aに対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成九年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人らは、株式会社スイングジャーナル社発行の月刊誌「スイングジャーナル」、株式会社立東社発行の月刊誌「ジャズライフ」及びビルボード社(アメリカ)発行の週刊誌「ビルボード」の各雑誌に各一回ずつ、「スイングジャーナル」及び「ジャズライフ」については原判決別紙(一)記載の、「ビルボード」については原判決別紙(二)記載の謝罪広告をそれぞれ原判決別紙掲載条件目録記載の条件で掲載せよ。

6  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴人スーパーストップ株式会社(控訴の趣旨)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人スーパー・ストップ株式会社に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成九年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  前記一3、5、6と同旨

三  被控訴人ら(附帯控訴の趣旨)

1  原判決中、被控訴人らの敗訴部分を取り消す。

2  控訴人Aの被控訴人らに対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人Aの負担とする。

(以下、控訴人を「原告」、被控訴人(附帯控訴人)を「被告」という。また、略称については原判決のそれによる。)

第二事案の概要

一  本件は、原判決別紙レコード目録記載の各レコード(「本件第一レコード」ないし「本件第四レコード」)に原判決別紙原告第一ないし第四ジャケット目録記載の各図柄(「原告第一図柄」ないし「原告第四図柄」)のジャケットを付して、フレッシュ・サウンド・レーベルで製造、販売しているとする原告らが、本件各レコードに原判決別紙被告第一ないし第四ジャケット目録記載の各図柄(「被告第一図柄」ないし「被告第四図柄」)のジャケットを付して製造、販売していた被告らに対し、次の各請求をした事案である。

1  原告Aが、被告らに対し、

(一) 本件各レコードの著作隣接権に基づき、本件各レコードの製造、販売、頒布の差止め

(二) 原告第二図柄についての著作権に基づき、① その複製、販売、頒布の差止めと、② 謝罪広告の掲載(著作権法一一五条)

2  原告らが、被告らに対し、被告らの行為が不正競争防止法二条一項一号に当たるとして、

(一) 同法三条に基づき、原判決別紙被告各図柄を用いて本件各レコードの製造、販売、頒布の差止め

(二) 同法四条に基づき、損害賠償の支払(原告Aについて金二〇〇万円、原告スーパー・ストップについて金一〇〇〇万円)

(三) 同法七条に基づき、謝罪広告の掲載

原判決は、原告第二図柄の著作権を理由とした請求(前記1(二))のうち、これを複製したジャケットを付したレコードの販売の差止めのみを認容し、その余の原告らの請求をいずれも棄却したところ、原告らが本件控訴を、被告らが附帯控訴を提起した。

二  前提となる事実は、原判決九頁五行目の「異なっていた。」の次に「また、本件第四レコードについては、ピリオドというレーベルが使用されているが、これはエベレスト社の有するレーベルであり、エベレスト盤として表示する。」を加えるほか、原判決七頁一〇行目から一一頁八行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。

第三争点及び争点に関する当事者の主張

一  本件の争点及び争点に関する当事者の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第三、第四(原判決一一頁九行目から三三頁九行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の訂正等

1  原判決一一頁一〇行目、一二頁九行目、一三頁八行目の「に関し」をいずれも「が」と改め、原判決一一頁末行、一二頁の九行目から一〇行目にかけて、一三頁八行目の「ついて」の次にいずれも「求めたもの」を加える。

2  原判決一五頁七行目の「著作隣接権の保護期間が五〇年間に延長されたことから」を「著作権法施行前(昭和四五年一二月三一日以前)にその音が最初に固定されたレコードについても、著作隣接権が認められることとなったから」と改める。

3  原判決二〇頁八行目の「著作者の著作人格権」を「(曲名の無断変更による)作曲者の著作権」と改める。

三  当審における原告らの補充主張

1  著作隣接権に基づく請求(争点一)について

(一) 本件各レコードが平成八年改正法によって著作隣接権の保護の対象となったものであること、右改正法施行前に作製された複製物(施行前複製物)の取扱いについては著作権法上明示の規定がないことは原判決が説示するとおりであるが、施行前複製物を施行期日後に頒布する行為は著作隣接権を侵害すると解すべきである。けだし、権利者が損害を被る点では、施行期日前の複製物であれ施行期日後の複製物であれ異なるところはなく、施行期日後の頒布行為そのものを禁止しなければ、権利保護の実効性を確保することができないからである(争点一1)。

(二) 丙二(被告徳間作成の各営業所長宛の連絡文書)に「一時出荷停止」と記載されていることからも明らかなように、被告らが被告商品の販売を中止しているのも一時的な措置にすぎないし、また、被告らは、原告Aの著作隣接権の存在を争っていて、正当な権利者から許諾を得て複製販売していると主張している者らであるから、被告らが今後本件各レコードを再び製造販売するおそれは依然として消えておらず、差止めを求める必要性がある(争点一4)。

2  不正競争防止法に基づく請求(争点三)について

原告各図柄は、需要者の間で周知の図柄であったというべきであり、「フレッシュ・サウンド」こと原告Aが製造販売している復刻盤として認識されているのであって、同原告の商品表示として周知性がある。

被告らは、原告らが継続的な宣伝広告により築いた原告各図柄に対する周知性、信用性に便乗する形で、右の図柄を無断複製して本件各レコードを販売しているのであり、この図柄による識別機能は、不正競争防止法の保護の対象とされるべきである。

3  信用回復措置の必要性(争点四)について

原告Aは、原告第二図柄に関して氏名表示権(著作権法一九条)を有しているところ、被告らは、原告第二図柄を複製して使用するに際して原告Aの氏名を表示せず、著作者名の表示を省略して公衆に提供し、原告Aの著作者人格権を侵害している。

四  当審における被告らの補充主張

1  原告第二図柄の著作権に基づく差止請求の必要性(争点二3)について

被告らは、平成一二年二月一〇日、その保有する本件第二レコードの全部を廃棄処分したから、将来これを販売するおそれはなく、したがって、原審が認容した販売の差止めの必要性はない。

2  信用回復措置の必要性(争点四)について

そもそも原告第二図柄について著作権は成立しないから、原告Aの著作者人格権も発生しないし、また、原告第二図柄にはもともと当初から同原告の氏名表示がないところ、被告らは、そのような氏名表示のない図柄を何らの改変も加えずにそのまま利用しているものにすぎないから、著作者人格権の侵害はない。

第四当裁判所の判断

一  本件各レコードの著作隣接権に基づく請求(争点一)について

当裁判所も、原告Aの右請求は、争点一2、3について判断するまでもなく、理由がないものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第五の一(原判決三四頁一行目から四〇頁八行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

原判決三五頁六、七行目の「世界貿易機関の加盟国に係るレコードについても」を「著作権法施行前(昭和四五年一二月三一日以前)にその音が最初に固定されたレコードについても」と改める。

2  原告Aの主張に対する判断の補足

(一) 著作隣接権の保護範囲(争点一1)について

原告Aは、施行前複製物を施行期日(平成九年三月二五日)後に頒布する行為はなお著作隣接権の侵害に当たると主張するが、前記引用に係る原判決の該当箇所(三六頁)で判示のとおり、施行期日前の複製行為が著作隣接権の侵害に該当しない以上、施行前複製物が著作権法一一三条一項二号にいう「著作隣接権を侵害する行為によって作製されたもの」といえないことは明らかであるから、これを施行期日後に頒布したとしても、著作隣接権の侵害に当たると解する余地はなく、したがって、原告Aの右主張は採用することはできない。

(二) 差止めの必要性(争点一4)について

原告Aは、丙二に「一時出荷停止」と記載されていることなどを根拠に、被告らは、今後なお、本件各レコードを製造販売するおそれがあると主張するが、前記引用に係る原判決の該当箇所(三八頁七行目から四〇頁八行目まで)で説示するとおりの理由に加えて、後記二2後段の事実(被告らが平成一二年二月に本件第二レコードを全部廃棄したこと)をも併せ考えると、右の主張は採用することができない。

仮に、同原告主張のように、被告らがインタープレイ社を通じてエベレスト社から本件各レコードの複製、頒布につき正規の許諾を得ることなく、本件各レコードを製造、販売していたものとしても、被告ヴィーナスレコードが本件各レコードを製造したのは、平成八年改正法が施行され、その製造が真の著作隣接権者との関係で違法とされる前の平成八年末までというのである(前提的事実4)から、被告らが、これが違法とされるに至ったにもかかわらず、今後、改めて本件各レコードの製造、販売を行うおそれがあるとはいえない。後記二のとおり、被告ヴィーナスレコードは、原告第二図柄の著作権を侵害したというべきであるが、右図柄は本件第二レコードのジャケットとして使用されているに過ぎず、このことのみをもって、被告らによる、本件各レコードの製造、販売のおそれを認めることはできない。

二  原告第二図柄の著作権に基づく請求(争点二)について

1  当裁判所も、原告第二図柄について、原告Aが著作権を有しており、その使用が権利濫用に当たるとはいえず、一方、被告らが、右図柄について、インタープレイ社を通じエベレスト社から複製、頒布の許諾を受けたと認めることもできないと判断する。

その理由は、原判決「事実及び理由」欄の第五の二1、2(原判決四〇頁一〇行目から四四頁一〇行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。

2  差止めの必要性(争点二3)について

前記一で引用した原判決の該当箇所(第五の一1(三)(2)、同一2(二))で認定判断したとおり、被告ヴィーナスは、平成八年一二年末日以降、被告商品を製造しておらず、被告らは、平成九年二月一三日以降、被告商品の販売を中止しており、更に、本件各レコードを今後新たに複製して販売するおそれがあるとは認められない。

そして、当審で提出された乙第一四号証の1、2及び弁論の全趣旨によると、被告らは、平成一二年二月一〇日、保有していた本件第二レコードの全部を廃棄したことが認められるから、被告らが、将来、本件第二レコードを販売するおそれもなくなったというべきである。

したがって、原告Aの右請求は理由がない。

三  不正競争防止法に基づく請求(争点三)について

当裁判所も、不正競争防止法に基づく原告らの請求(差止め及び損害賠償の各請求)は、いずれも理由がなく、棄却を免れないものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第五の三(原判決四六頁九行目から五四頁九行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正等

(一) 原判決四七頁八行目の「この点は必要性がないので」を削り、同四八頁四行目の「であること」から同頁末行の「また、」までを、「であるが、右販売数は、輸入盤としては『クリーンヒット』といわれる程度の売れゆきであったことが認められ(原告スーパー・ストップ代表者の原審供述。この点についての被告ヴィーナス代表者の原審供述は、右供述と比較して採用できない。)、そのうち、本件第一、第四レコードは、フレッシュ・サウンド社のカタログや雑誌に掲載されたことが認められる。しかし、」と改める。

(二) 原判決五〇頁二行目の「ところで」を「のみならず」と、同一〇行目の「レコードに」から次行の「レコードそのもの」までを「特定の演奏家による特定の楽曲の音源のレコードそのもの」と、それぞれ改める。

2  原告らの主張に対する判断の補足

(一) 原告らは、フレッシュ・サウンドが日本国内において、復刻盤をリリースする会社として有名であり、原告各図柄に付された「フレッシュ・サウンド」の表示と相まって、原告各図柄が、フレッシュ・サウンドが製造販売している復刻盤として認識され、これがレコードの音源に対する信用につながって、需要者の購買意欲を促しているのであるから、原告各図柄は、原告A又はフレッシュ・サウンド社の商品であることを表示するものといえると主張する。

しかし、そもそも、原告ら主張のとおり、原告各図柄が「フレッシュ・サウンド」の表示と相まって原告Aの商品であることを表示してきたとすれば、被告商品の各ジャケットには「Venus Records Inc」との表示はなされていても、「フレッシュ・サウンド」(「FRESH SOUND」)の表示はなされていない以上、原告A商品との混同を生ずるはずはないというべきであるし、また、「フレッシュ・サウンド」の表示を除いて考えると、前記引用に係る原判決の該当箇所(第五の三1(一))に記載のとおり、原告各図柄だけでは、原告Aの商品であることを表示する機能を有しているとはいえない。

(二) 原告らは、「他人」として特定されるためには、表示がある特定の者の商品であることを識別するものとして知られる必要があるが、それ以上に識別された商品や営業の主体の名称まで周知である必要はないと主張する。

しかし、前記引用に係る原判決の該当箇所(第五の三1(一))で認定したとおり、原告第一、第三図柄とほぼ同一の図柄を使用したレコードが他社からも製造、販売されていることに照らすと、結局、原告各図柄のみをもって、右レコードの製造、販売の主体を特定の者であると識別することは困難であって(すなわち、需要者としては、ジャケットの図柄のみでは、いつの段階でレコードの原盤権が取引され、誰がレコードを製造、販売しているのかを知ることはできない。)、「フレッシュ・サウンド」の表示があって、初めて、ある特定の者(フレッシュ・サウンド社、ひいては原告A)の商品であることの識別が可能であると考えられるから、原告らの右主張も採用することができない。

四  信用回復措置の必要性(争点四)について

1  前記三のとおり、被告らの不正競争行為を認めることができないので、不正競争防止法七条に基づく原告らの請求は、必要性について判断するまでもなく、失当である。

2  著作権法一一五条に基づく原告Aの請求について

原告Aは、被告らが、原告第二図柄について、同原告の氏名を表示せずにその著作物を利用したことにより、同原告の氏名表示権を侵害したと主張する。

被告らが、原告第二図柄を複製して使用したことは前記二1で認定したとおりであるところ、甲第七号証の1、検甲第四号証によると、その際、原告Aの氏名を表示していないことが認められる。

しかし、被告らの行為は、原告第二図柄をそのまま複製し、使用するというものであり、その利用態様が、著作者の名誉又は声望を害する方法とはいえず、また、原告第二ジャケットに、原告Aの氏名を表示していないことを併せ考えると、被告らが、被告商品の被告第二図柄について、原告Aの氏名を表示しなかったことをもって、原告Aの社会的声望名誉を低下させたということはできず、原告らが求める内容の謝罪広告の掲載を必要とするだけの著作者人格権の侵害があったということはできない。

したがって、原告らの右の請求も理由がない。

五  結論

以上によると、原告らの本件各請求はいずれも失当であるから、これを一部認容した原判決は、その限度で不当というべきである。

よって、原告らの本件各控訴を棄却し、被告らの各附帯控訴に基づき、原判決中被告ら敗訴部分を取り消し、右部分に係る原告Aの請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 山田陽三)

裁判官 川神裕は、異動のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 鳥越健治

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